家康視点多し。
特に記述が無ければ、関ヶ原になります。他武将も登場する場合には割合が多ければ記述。
関ヶ原、主に家三で小説、たまに絵。史実ネタとその逸話からの独自解釈、捏造改変など混ぜてたり。
基本はゲーム設定に色付け。男前が目標。シリアスで戦国設定濃い目。転生、現代あり。
合戦描写が好きな管理人です。
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特に記述が無ければ、関ヶ原になります。他武将も登場する場合には割合が多ければ記述。
関ヶ原、主に家三で小説、たまに絵。史実ネタとその逸話からの独自解釈、捏造改変など混ぜてたり。
基本はゲーム設定に色付け。男前が目標。シリアスで戦国設定濃い目。転生、現代あり。
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十二
黒点
家康が欄干に差し掛かると庭をぼんやりと眺める市を見付けた。
「お市殿」
「光色さん」
「お市殿、申し訳無い。ワシの愚息の相手などして貰って」
「いいの。市には他にする事も無いもの。それにここはとても暖かいわ。光色さんが居るからなのね」
市が庭に咲いている華を撫でている。楽しそうに見えた。己と同じく心に闇を抱えている市が時折寂しくも笑うのが羨ましくて仕方ない。市だけは本音で語りあえる。市と接している時が一番穏やかに己を維持できる気がした。
「・・・会いたい?」
唐突に市が家康に問う。
「それは・・・」
願っても無い事。しかし。
「光色さんなら・・・いつか、会えるわ」
「なに?」
それは途方も無い事。かの梟雄が遺した書や南部の反魂など幾つか思い付く限りの事は調べたが、いずれも家康が真に望んでいるものでは無い。
諦めて忘れようとした想いが掻き起される。
伸ばしても掴めない。
答えが得られない侭時が過ぎる。
景色が移ろいで行く。
市が身罷った。
生涯心が戻らぬ侭の落命。
家康の落胆は加速する。
「家康様」
気心知れた旧臣の声。
家康は足を止め振り返る。
「どうした?久しいな」
表舞台から退いた家康が暇を出していた一人。
懐かしむ。
「久し振りにお会いしとう御座居ました」
「すまない。それにしても、文を出してくれれば、迎えを出したものを」
「それには及びませぬ」
旧臣が家康に目配せをする。
これは、合図だ。
「では、立ち話もなんだな」
家康が右手平を後ろに顔の傍に持って行く。
近習が素早く用意した馬に跨る。
旧臣もそれに倣う。
旧臣の近況報告に耳を傾けながら、馬を進める。
徐々に人目が無い場所に進む。
寺。
無名に近い寺だ。
廃寺と言っても納得してしまうような。
そこへ先導していた旧臣が入って行く。
家康も後に続く。
「家康様に是非お目にかけたい者がおりまして」
「ワシに?」
今時、このような時分に会う者が居るとは思えない。
訝しむ家康に、笑顔な旧臣。
この旧臣とは特段親しい仲であった家康は其の侭奥の間に入る事にした。
「ようこそ、おいで下さいました」
初見。
親しみを持たれての挨拶に家康は笑顔を返す。
出された茶を飲む。
風に打たれ僅かに下がった体温に、暖かな茶が心地良い。
碗を置く。
熱が移った平を膝の上に静かに置く。
家康は相手が切り出す迄静かに待つ。
「家康様」
僧が口を開く。
「家康様。流石は、生き神様であらせられまするな」
「?」
相手の出を伺う家康。
何の用件なのか皆目見当付かない相手への常套手段だ。
「お会いしたい方がおられるとか。いえ、どなたなのかは存じません。何分、わたくしは世俗に疎いものですから。ただ、貴方様のお力になれるやもと思いましてな」
家康は横目で旧臣を見る。悪戯かと頭を掠めるがそうでも無いらしい。
「家康様。実は拙者がこの方のお話に心惹かれまして。何かの糸口となるのでは無いかと。勝手を致しました」
「家康様。単刀直入に申しましょう。家康様は、真の神になられますぞ。新しい神に。この日ノ本を統べる神になられまする。貴方様であれば、貴方様の欲している願いも叶えられましょう」
「ワシが・・・神に?ワシの願いは・・・」
「叶えたいと願っておいででは?じきに、貴方様はその力を得られるのです」
にわかには信じ難い。そうであって欲しいと思う事と信じる事は別物だ。
「根拠が無い」
「確かに、仰る通り。しかし、世の中、そういう物でございましょう?」
成程。食えぬ男だ。
「霊験は存在致しまする。物事には人智のみで測れぬ事も多きゅう御座います。覚えがおありでは?人は信ずる事によって進むもので御座居ます」
「だとしてもワシを買い被り過ぎだ」
「貴方様は、誰も成し得た事の無い事を成された。それは努力や経験のみで成せる物でも御座居ません」
僧が家康を見る。
「今は実感が無いのも無理は御座居ますまい。まだ成ったばかりなのですから。先は長う御座居ます」
「よく分からんが。ワシが生きている内に成せる事なのか」
「それは貴方様次第に御座居ます。先ずは、信ずる事」
煙に巻かれた気分が拭えない侭、家康は寺を後にする。
しかし、その夜からだ。今思えば、不思議な出来事の連続となる。
夢をよく見るようになった。それも政事に繋がる事。
ただの夢かと思いきや、それが既視感であったと感じる。
夢があるからといって未然に防ぐ事の出来無い事もあるが、夢のおかげでそう大事に致る前に対処が施せた。
「不思議なものだな」
月を見上げて家康は独りごちる。
「今夜は、いつになく、綺麗な月だ。な?」
愛蔵の酒を煽る。
空の盃に注ぐ。
澄んだ美禄に月が映り込む。
家康は天上の月を眺めた。
火照った身体に夜風が滲み込む。
程良い眠気。自然頭垂れる。
盃の中の月。
それに家康は笑う。
「・・・もうじき、だ。じきに、会える」
暫く手元を見詰める。
やがて決心する。
酒を飲み干す。
「会いに、行くから」
家康は眠った。
(終)
「お市殿」
「光色さん」
「お市殿、申し訳無い。ワシの愚息の相手などして貰って」
「いいの。市には他にする事も無いもの。それにここはとても暖かいわ。光色さんが居るからなのね」
市が庭に咲いている華を撫でている。楽しそうに見えた。己と同じく心に闇を抱えている市が時折寂しくも笑うのが羨ましくて仕方ない。市だけは本音で語りあえる。市と接している時が一番穏やかに己を維持できる気がした。
「・・・会いたい?」
唐突に市が家康に問う。
「それは・・・」
願っても無い事。しかし。
「光色さんなら・・・いつか、会えるわ」
「なに?」
それは途方も無い事。かの梟雄が遺した書や南部の反魂など幾つか思い付く限りの事は調べたが、いずれも家康が真に望んでいるものでは無い。
諦めて忘れようとした想いが掻き起される。
伸ばしても掴めない。
答えが得られない侭時が過ぎる。
景色が移ろいで行く。
市が身罷った。
生涯心が戻らぬ侭の落命。
家康の落胆は加速する。
「家康様」
気心知れた旧臣の声。
家康は足を止め振り返る。
「どうした?久しいな」
表舞台から退いた家康が暇を出していた一人。
懐かしむ。
「久し振りにお会いしとう御座居ました」
「すまない。それにしても、文を出してくれれば、迎えを出したものを」
「それには及びませぬ」
旧臣が家康に目配せをする。
これは、合図だ。
「では、立ち話もなんだな」
家康が右手平を後ろに顔の傍に持って行く。
近習が素早く用意した馬に跨る。
旧臣もそれに倣う。
旧臣の近況報告に耳を傾けながら、馬を進める。
徐々に人目が無い場所に進む。
寺。
無名に近い寺だ。
廃寺と言っても納得してしまうような。
そこへ先導していた旧臣が入って行く。
家康も後に続く。
「家康様に是非お目にかけたい者がおりまして」
「ワシに?」
今時、このような時分に会う者が居るとは思えない。
訝しむ家康に、笑顔な旧臣。
この旧臣とは特段親しい仲であった家康は其の侭奥の間に入る事にした。
「ようこそ、おいで下さいました」
初見。
親しみを持たれての挨拶に家康は笑顔を返す。
出された茶を飲む。
風に打たれ僅かに下がった体温に、暖かな茶が心地良い。
碗を置く。
熱が移った平を膝の上に静かに置く。
家康は相手が切り出す迄静かに待つ。
「家康様」
僧が口を開く。
「家康様。流石は、生き神様であらせられまするな」
「?」
相手の出を伺う家康。
何の用件なのか皆目見当付かない相手への常套手段だ。
「お会いしたい方がおられるとか。いえ、どなたなのかは存じません。何分、わたくしは世俗に疎いものですから。ただ、貴方様のお力になれるやもと思いましてな」
家康は横目で旧臣を見る。悪戯かと頭を掠めるがそうでも無いらしい。
「家康様。実は拙者がこの方のお話に心惹かれまして。何かの糸口となるのでは無いかと。勝手を致しました」
「家康様。単刀直入に申しましょう。家康様は、真の神になられますぞ。新しい神に。この日ノ本を統べる神になられまする。貴方様であれば、貴方様の欲している願いも叶えられましょう」
「ワシが・・・神に?ワシの願いは・・・」
「叶えたいと願っておいででは?じきに、貴方様はその力を得られるのです」
にわかには信じ難い。そうであって欲しいと思う事と信じる事は別物だ。
「根拠が無い」
「確かに、仰る通り。しかし、世の中、そういう物でございましょう?」
成程。食えぬ男だ。
「霊験は存在致しまする。物事には人智のみで測れぬ事も多きゅう御座います。覚えがおありでは?人は信ずる事によって進むもので御座居ます」
「だとしてもワシを買い被り過ぎだ」
「貴方様は、誰も成し得た事の無い事を成された。それは努力や経験のみで成せる物でも御座居ません」
僧が家康を見る。
「今は実感が無いのも無理は御座居ますまい。まだ成ったばかりなのですから。先は長う御座居ます」
「よく分からんが。ワシが生きている内に成せる事なのか」
「それは貴方様次第に御座居ます。先ずは、信ずる事」
煙に巻かれた気分が拭えない侭、家康は寺を後にする。
しかし、その夜からだ。今思えば、不思議な出来事の連続となる。
夢をよく見るようになった。それも政事に繋がる事。
ただの夢かと思いきや、それが既視感であったと感じる。
夢があるからといって未然に防ぐ事の出来無い事もあるが、夢のおかげでそう大事に致る前に対処が施せた。
「不思議なものだな」
月を見上げて家康は独りごちる。
「今夜は、いつになく、綺麗な月だ。な?」
愛蔵の酒を煽る。
空の盃に注ぐ。
澄んだ美禄に月が映り込む。
家康は天上の月を眺めた。
火照った身体に夜風が滲み込む。
程良い眠気。自然頭垂れる。
盃の中の月。
それに家康は笑う。
「・・・もうじき、だ。じきに、会える」
暫く手元を見詰める。
やがて決心する。
酒を飲み干す。
「会いに、行くから」
家康は眠った。
(終)
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