家康視点多し。
特に記述が無ければ、関ヶ原になります。他武将も登場する場合には割合が多ければ記述。
関ヶ原、主に家三で小説、たまに絵。史実ネタとその逸話からの独自解釈、捏造改変など混ぜてたり。
基本はゲーム設定に色付け。男前が目標。シリアスで戦国設定濃い目。転生、現代あり。
合戦描写が好きな管理人です。



   黒点   
鈍い音が響く。耳に反響する。拳から骨が砕ける感触が伝う。

叩き込んだ拳に飛ばされる三成。

苦痛に歪んだ三成の顔。

三成は刀を支えに地に突き立てるが余力が残っていないのか刀を残して崩れる。

「三成っ!!!」

黒血を吐き出す三成の姿が駆け寄る家康の目に写る。

三成が地に激突する前に家康は辛うじて三成の身体を支える。

痛みで顔を上げる事が出来ないのか、三成は家康を振り払う事もなく支えられたまま不規則な呼吸のみを続けた。

「三成っっ」

家康の呼びかけに三成が弱々しく家康の腕を掴む。

「三成っ」

再三の声でようやく顔を上げた三成の顔は酷く蒼ざめていた。
血の気を失って元々の白い肌よりも白く生気が無い。
ヒューヒューと浅くはやい呼吸の音が家康の耳を刺す。

三成が口を開く。また血を吐く。

朦朧としているのか力無い視線で三成は家康を見る。

「・・・いぇや・・・す」

聞き慣れた自分の名を呼ぶ三成の声は、静かなものだ。長らく望んでいた声だというのに、胸が痛い。

「家康。こ、れ・・・で、満足か?」

肩で息をしながら三成は家康に問う。

「三成・・・」

家康は三成を見返す。

「何故、そんな顔をする。家康」

三成の穏やかな声に家康は胸が詰まる。

「い、えゃす?」

「み、つなり・・・」

三成にかける言葉が無い。
鈍色の甲冑が砕けて、三成の肌を無残に深く抉っていた。
こんな傷を負わせたのは、他でも無い家康自身。

「家康・・・私は、愚か、だ、な。この時になっ・・・て、・・・私は、何もして来なかったと気付く・・・など。きさまを、殺したところで、秀吉さまは帰って来ない。私が貴様の、首を欲していた、のは・・・私の生きる理由が欲しかっただけ、なんだ、と。
笑え。笑うがいい。愚かなわ、たしを・・・」

「笑わない。ワシはお前を笑わないッ!」

錆びた匂いが鼻につく。死の匂いが纏わり付く。気持ち悪い。

「家康」

「三成、も、う喋るなッ、血が・・・ッ!」

深い傷を追った身で喋るなど自殺行為だ。見る見るうちに血が流れて行く。命が流れて行く。体温が下がって行く。

「家康。・・・・・・何故、秀吉様を討った?そぅで無ければ、ゎ・・・」

「三成?!なんだ?!!!」

掠れて音にならない声を必死に汲み取ろうと三成の口元を見て後悔した。

『・・・っと、・・・もに、居たかった・・・きだ、ぃぇ・・・』

そのまま三成の全てが止まる。握っていた手から脈が感じられない。首元の動脈を探っても脈は止まっていた。

「三成ッッ!!!」

三成の頬に手を添えて呼びかけても三成は答えない。瞳は光を灯していない。

まだ・・・まだ、こんなに暖かいのに。もう、死んでしまった。もう、触れて貰えない。もう、声も聞けない。もう、見ても貰えない。

泣いた。悲しくて、泣いた。苦しくて泣いた。

悔しい。

怒った三成。バツの悪そうな顔した三成。珍しく慌てていた三成。
今でも忘れない。昨日のように思い出される記憶。
嬉しかった事、悲しかった事。次々と思い出す。
辛かった時もあった。だが、三成と過ごした日々は自分らしくあれた。
意見の違う三成と対立した事もあったが自分と向きあってくれる三成が嬉しかった。好きだった。

ある日、好きな気持ちが恋慕だと気付いた。三成が同性である事に初めは戸惑った。三成に嫌われるんじゃないかと怖かった。それでも抑えられなくて思いの丈を告げたら、唖然とされた。潔癖な三成の事だから殴られるだろうと覚悟していたのに、疎いのか何事も無かったようにされて腹が立った。ムキになって、三成に何度も言い寄った。思いつく限り、三成が好きそうな書物を買って話しかけたものだ。

初めは欝陶しがって嫌々律儀な三成は眉を潜めながら横目で見ていたが悪意が無い事を認めてくれたのか段々と他愛の無い会話を交わしてくれるようになったな。

そしたら、いつの間にか、三成が肩を寄せて来てくれるようになって。

一緒に居るのが当然になって。



それなのに。


何故、こうなった?

いや、解りきっていた筈だ。それなのに、現実を拒絶している。
上手く呼吸が出来ない。

傷だらけの拳が痛い。いや、違う。そんなのは問題でも無い。
心が痛い。悲鳴を上げている。足が震える。気を抜いたら崩れ落ちてしまうだろう。膝が笑わないように、痛む拳をギリギリと閉めて、歯を食いしばって耐える。

静まり返った場に耐えられない。

三成の顔を見る。

死んでしまった三成。

でも、もしかしたら眠っているだけなんじゃなかろうか、と錯覚する程、綺麗な顔の三成。

「は・・・はは・・・」

乾いた声しか出ない。笑えない。引きつって上手く笑えない。これから、どうすればいい?
三成が居ない世界で、どうやって生きればいい?

「み、つな・・・ッッ」

思考を声に出しかけて、声を噤む。駄目だ。声に、出しては。終わってしまう。認められない。認めては駄目だ。

家康は自分の身体を抱きしめた。

冷たい。自分の体温はこんなにも冷たかったか?

狂ってしまいたい。狂えたなら、どんなに楽だろうか。死ねたらどんなに楽だろうか。

けれど家康には最早選ぶ権利が無い。自らが捨てた。

三成を殺してしまった。その自分だけが、逃げて良い訳がない。

家康はぼんやりと三成の亡骸を見る。

「・・・そうだ」

家康は思い立って、勢い良く立ち上がる。

己の本陣の奥へ向かう。

目当ての物を見付けた家康はそれを持って三成の傍に来た。

「これで良いだろう」

大きな葛籠。蓋を外して本陣にかけてあった陣幕を引っ張る。適当に畳んで葛籠の底に敷き三成の膝裏を抱えてそっと葛籠に入れる。三成の傍らに愛刀を添えた。もう一枚陣幕を取る。

「三成。済まないが、暫く辛抱してくれな」

三成を覆うようにかけてから葛籠の蓋をする。

外から見えない事を確認した家康は大きく息を吸う。

「・・・忠勝!!!」

主の声に数瞬の後に家康の前に忠勝が現れた。

「忠勝。・・・帰ろう」

葛籠を背負った家康は僅かに宙に浮いた忠勝の背に上がった。


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