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	<title>NOVEL - ▲天陽の月▽</title>
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		<title>一</title>

		<description>不穏な動きあり。

そう報告を受けた。…</description>
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			<![CDATA[ 不穏な動きあり。

そう報告を受けた。
以前から微かな兆しはあった。
知っていた。
しかし、表立った事では無い、と捨て置いていた。

所詮は小者のやる事、それに、その時は優先させねばならぬ事があった。
だが。
どれだけ騒ごうとも、いとも簡単に捻り潰してみせた事に、癇癪を起こしたのやら、ここの所有り余る行動が目に付くようになった。
のさばらせては沽券に関わる、とも言わないが、それでもやはり、そろそろ見過ごすわけにもいかなくなってきた。
内々に処理で済ませて来た今迄で観念して、やめれば良かったのに。

仕方無く、腰を上げざるを得ない。
表向きは。
あまりにも煩い蝿の駆除の名目で潰そう。
そう思い立った。

「墨を持て」

障子の外に呟く。

１つ返事がして、即座に持ち運ばれた書道具に、筆を走らせた。
火急に。
あれに知られずに、事を動かさねばならないだろう。
 ]]>
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		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2012-03-25T00:02:31+09:00</dc:date>
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		<title>十二</title>

		<description>家康が欄干に差し掛かると庭をぼんやりと…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 家康が欄干に差し掛かると庭をぼんやりと眺める市を見付けた。

「お市殿」

「光色さん」

「お市殿、申し訳無い。ワシの愚息の相手などして貰って」

「いいの。市には他にする事も無いもの。それにここはとても暖かいわ。光色さんが居るからなのね」

市が庭に咲いている華を撫でている。楽しそうに見えた。己と同じく心に闇を抱えている市が時折寂しくも笑うのが羨ましくて仕方ない。市だけは本音で語りあえる。市と接している時が一番穏やかに己を維持できる気がした。

「・・・会いたい？」

唐突に市が家康に問う。

「それは・・・」

願っても無い事。しかし。

「光色さんなら・・・いつか、会えるわ」

「なに？」

それは途方も無い事。かの梟雄が遺した書や南部の反魂など幾つか思い付く限りの事は調べたが、いずれも家康が真に望んでいるものでは無い。
諦めて忘れようとした想いが掻き起される。
伸ばしても掴めない。
答えが得られない侭時が過ぎる。





景色が移ろいで行く。

市が身罷った。
生涯心が戻らぬ侭の落命。
家康の落胆は加速する。

「家康様」

気心知れた旧臣の声。

家康は足を止め振り返る。

「どうした？久しいな」

表舞台から退いた家康が暇を出していた一人。
懐かしむ。

「久し振りにお会いしとう御座居ました」

「すまない。それにしても、文を出してくれれば、迎えを出したものを」

「それには及びませぬ」

旧臣が家康に目配せをする。
これは、合図だ。

「では、立ち話もなんだな」

家康が右手平を後ろに顔の傍に持って行く。
近習が素早く用意した馬に跨る。
旧臣もそれに倣う。

旧臣の近況報告に耳を傾けながら、馬を進める。
徐々に人目が無い場所に進む。
寺。
無名に近い寺だ。
廃寺と言っても納得してしまうような。
そこへ先導していた旧臣が入って行く。
家康も後に続く。

「家康様に是非お目にかけたい者がおりまして」

「ワシに？」

今時、このような時分に会う者が居るとは思えない。
訝しむ家康に、笑顔な旧臣。
この旧臣とは特段親しい仲であった家康は其の侭奥の間に入る事にした。

「ようこそ、おいで下さいました」

初見。
親しみを持たれての挨拶に家康は笑顔を返す。
出された茶を飲む。
風に打たれ僅かに下がった体温に、暖かな茶が心地良い。
碗を置く。
熱が移った平を膝の上に静かに置く。

家康は相手が切り出す迄静かに待つ。

「家康様」

僧が口を開く。

「家康様。流石は、生き神様であらせられまするな」

「？」

相手の出を伺う家康。
何の用件なのか皆目見当付かない相手への常套手段だ。

「お会いしたい方がおられるとか。いえ、どなたなのかは存じません。何分、わたくしは世俗に疎いものですから。ただ、貴方様のお力になれるやもと思いましてな」

家康は横目で旧臣を見る。悪戯かと頭を掠めるがそうでも無いらしい。

「家康様。実は拙者がこの方のお話に心惹かれまして。何かの糸口となるのでは無いかと。勝手を致しました」

「家康様。単刀直入に申しましょう。家康様は、真の神になられますぞ。新しい神に。この日ノ本を統べる神になられまする。貴方様であれば、貴方様の欲している願いも叶えられましょう」

「ワシが・・・神に？ワシの願いは・・・」

「叶えたいと願っておいででは？じきに、貴方様はその力を得られるのです」

にわかには信じ難い。そうであって欲しいと思う事と信じる事は別物だ。

「根拠が無い」

「確かに、仰る通り。しかし、世の中、そういう物でございましょう？」

成程。食えぬ男だ。

「霊験は存在致しまする。物事には人智のみで測れぬ事も多きゅう御座います。覚えがおありでは？人は信ずる事によって進むもので御座居ます」

「だとしてもワシを買い被り過ぎだ」

「貴方様は、誰も成し得た事の無い事を成された。それは努力や経験のみで成せる物でも御座居ません」

僧が家康を見る。

「今は実感が無いのも無理は御座居ますまい。まだ成ったばかりなのですから。先は長う御座居ます」

「よく分からんが。ワシが生きている内に成せる事なのか」

「それは貴方様次第に御座居ます。先ずは、信ずる事」

煙に巻かれた気分が拭えない侭、家康は寺を後にする。

しかし、その夜からだ。今思えば、不思議な出来事の連続となる。

夢をよく見るようになった。それも政事に繋がる事。
ただの夢かと思いきや、それが既視感であったと感じる。
夢があるからといって未然に防ぐ事の出来無い事もあるが、夢のおかげでそう大事に致る前に対処が施せた。

「不思議なものだな」

月を見上げて家康は独りごちる。

「今夜は、いつになく、綺麗な月だ。な？」

愛蔵の酒を煽る。
空の盃に注ぐ。
澄んだ美禄に月が映り込む。
家康は天上の月を眺めた。
火照った身体に夜風が滲み込む。
程良い眠気。自然頭垂れる。
盃の中の月。
それに家康は笑う。

「・・・もうじき、だ。じきに、会える」

暫く手元を見詰める。
やがて決心する。
酒を飲み干す。

「会いに、行くから」

家康は眠った。




（終）
 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2012-03-23T23:03:23+09:00</dc:date>
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		<title>十一</title>

		<description>「父上様」

慣れない言葉が背中に刺さ…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 「父上様」

慣れない言葉が背中に刺さる。そう呼ばれるような者が周りにいないを認知して、漸く己の事だと認識する。面倒だが、答えねばなるまい。

「なんだ」

あまり芳しくない声色が出てしまった。そもそも自ら望んだ子では無い。

子供の方が余程敏感に感情を察する。家康がゆっくりと振り返ると子供は怯える様な目をしていた。

「父上様は、加減が思わしゅう無いのでござりますか？」

家康の声色に対しての当たり障りの無い言葉。言い付けてある教育係がそう躾たのだろう。

「お前がそんな心配をしなくても良い」

（めんどくさい。どうせ何も知らぬのだ。顔色を伺われても気持ち悪い）

「父上様。私に、お任せ下さりませ！！！」

「あの件は、既に決めた事だ。・・・秀康」

表向きがあるから多少は接しているが、我が子とは思いたく無い。顔はハッキリ言って利発とは思えない。武芸に関しては並の下、といったところか。戦が殆ど無くなった今、武芸などに秀でている必要も無いがその癖、やっけになっているのが滑稽だ。組織で治める仕組みを築いているのを理解していない様に溜息が漏れる。次期将軍に据えるべきでは無い。

「教えて下さりませ。秀忠の何が父上様のお心に止まったのでしょうか」

（別に。秀忠なぞ実のところ使えるとは思っておらん。家臣共と上手くやれそうな点だけが幾分マシなだけ。猪突な秀康よりはマシな程度だが。その無駄に食い下がるのを止めろ、腹が立つ。）

無感情な目で秀康を見る。

（完全な名前負けか）

「父上様・・・「黙れ」

今度こそ家康はハッキリとした嫌悪を顕にした。

「控えよ秀康。次期将軍は、秀忠だ。これは覆る事など無い。お前は秀忠を支えよ」

凍えた目で秀康を見る。接する気も失せた。 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2012-03-23T23:02:50+09:00</dc:date>
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		<title>十</title>

		<description>「死者を蘇らせる方法・・・」

たまた…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 「死者を蘇らせる方法・・・」

たまたま、日課の薬の調合の為に書物を大量に取り寄せていた中にその一文が記述されていた。鎮痛や痺れを緩和させる方法の中に心肺停止した際の効用などの知識の隅に、ひっそりと書かれていた。以前の家康ならば半信半疑以下で読み飛ばしていたものだ。

指揮を取りつつ前線で戦場を駆け巡っていた家康にとって、戦地で散っていった仲間も多く、喪失感はあった。亡くなる事は悲しい。今迄の家康であったならば、死する事は致し方無い事、と割り切っていた。己も死する身。死は悲しい物であるが、嘆くだけでは何も解決しないと身に染みていた。己は死ね無いから、生きる事に必死であったから、死者を悼む事はあっても立ち止まる事はしていなかった。

だが。

今の家康は揺れに揺れ動いている。我が身よりも大切にしたいと思った人を自らの手で死なせた。殺した。他に方法があっただろうに心に蓋をしていた。

三成の死を受け入れたわけでは無い。受け入れられていない。毎夜夢に見る。三成と過ごした日々の夢は一時幸せな気分に浸れるが、起きた時の絶望感。三成を殺した時の夢の恐怖。生きている心地がまるでしない。

家康は仏教も神道も軽んじてはいなかったが、死者が蘇る、という事については信憑していない。

（生き返るものなら誰も死にはするものか）

悲しい思考に一層落ち込む。

（生き返る・・・）

「口寄せ！！！」

巫女が良く行うものだ。巫女といえば、海神の巫女なら何か知っているか？いや、巫殿よりも・・・イタコの方が死者そのものの蘇生が出来た筈。ならば、南部晴政を訪ねてみるか。

「・・・いや、どれも駄目だな・・・」

仮にも、天下人である。その道に明るい者を探し出すのは容易い。だがその反面口封じは困難となる。付け込まれる。本気を出せば出来ない事など何も無いが、戦火を繰り返しては意味が無い。

「何か・・・ある、筈だ・・・」

深く深く思考を沈める。あらゆる手法を計算する。

「ッ！！！」

激痛に我に返る。思い切り指の皮膚を食い破っていた。鮮血が流れる。眉をしかめつつ懐紙で乱暴に拭う。

「・・・そうだ。お市殿！」

かつて同盟を結んでいた織田。その信長の妹。信長が討たれた際に生死不明になっていた市だが、関ヶ原の合戦の為の進軍中に出会う事が出来た。市は変わり果てていた。儚げではあったものの笑顔もあった彼女を知っていただけに己の名前すら覚えていない事に驚きを隠せなかった。夫・長政の死が変えてしまったのだろう。市を取り巻く瘴気は魔王と呼ばれていた信長に勝るとも劣らない。正気を無くした市が纏っていた異形は恐らく、死者の手。ならば、根の国に繋がっているだろう。

かつての織田の領地に家康は足を向けていた。

市の姿を探す。崩壊した城の瓦礫の中で地べたに彼女は座り込んでいた。

「お市殿」

家康が呼び掛けると市はゆっくりとこちらへ顔を向けた。

「こんにちは。光色さん」

「お市殿。実は、貴方に訊ねたい事があるのだ」

「市に？」

「お市殿は・・・亡くなった者の声とか聞こえたりはしないだろうか？」

「光色さん。泣いているの？辛いの？可哀想。・・・そう、辛いのね」

家康は苦笑いを浮かべる。表面上は泣いてはいないが、言い当てられて苦笑するしかない。

「闇色さん、あんなに綺麗だったのに。光色さん、何故闇色さんから奪ったの？」

市は痛いところを突く。

「ワシにも分からん。本心では無かった筈なのにだ。今更だが、三成に・・・会いたい」

「闇色さんね、泣いているの。根の国にも行けないのよ。苦しんでるわ。光色さんは狡い人なのね」

「狡い・・・か。そうだな。その通りだ」

「・・・そこに、居るの。悲しそうな顔で。光色さんを見ているの」

市の声に音速で振り返る。市の視線の先を見る。

「み、「駄目。行かないで。行っては駄目」

市の制止の腕。振りほどくのは容易。だが、その目を見てゾッとした。

「闇色さんは望んでいないの。そっとしておいて？ね？」

市の空気が澱んでいる。一旦引こう。手掛かりを得ただけでも今回は良しとしよう。家康は市を連れてその場を後にした。



 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
		<dc:date>2012-03-23T23:02:20+09:00</dc:date>
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		<title>九</title>

		<description>瞼を起こすと心地良い空気。
家康は微睡…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 瞼を起こすと心地良い空気。
家康は微睡んでいた。

鼻腔から吸う酸素で肺が収縮する。
視界に映るのは殺風景な部屋。

身を上げる。ぼんやりと見詰める。次第に鮮明になる思考。
静まり返った室内。己以外の人の気配は無し。一人であると認識して身震いする。

己の手を握りしめる。
先刻迄感じていた視線、言葉、温もり。全て・・・夢か。
あれが夢では無く現実であったならば。
そう願うのは何度目か。

見る事も。声を聞く事も。触れる事すらも出来ない。己を見て欲しい。触れて欲しい。呼んで欲しい。
目に映る空間は三成だけが居ない。
三成が死んだという結果だけが浮いている。事実は認められない。心が拒否している。
どんなに呼吸しても、動悸は静まらない。

また顔が歪む。涙は出ない。枯れてしまったんだろうか。
苦しくて柱に身体を倒す。浅く呼吸を繰り返す。

「・・・馬鹿野郎。しっかりしろ」

己を叱責して立ち上がる。

弱々しい所作。空を見上げる。流れる雲の隙間から太陽が差し込んでいる。眩しくて目を細めた。

「江戸に帰ろう」

庭で遊んでいた馬の首に触れる。








江戸城に帰って来る頃にはとっぷりと日も暮れていた。
栄え出した己の城下。楽しそうに笑う子供。平和な町。夜でも賑やかな江戸の町。
数多の行灯に照らされて真昼と変わらぬ人の往来。

「大きな戦が無くなってそれ程経っていないのに、随分と昔の事に思えるな」

そういえば、最近は城に篭もりきりだった。

三河の家臣たちならばそうそう家康の行動に不満を漏らす筈も無いが、それでもやはり天下人が頻繁に城から抜け出すのは良いとは言えない。

多くもない機会を満喫しようと家康はゆっくりと城下を歩く。

ちらちらと感傷が横切るが気付かないフリをする。

小腹が空いたので菓子を買い求めては口に放る。

町人と程良く会話をして、そろそろ城に入ろうと思い出した。

一寸先に、見覚えのある姿を見付けて固まる。

喧騒の中、家康の時間だけが止まる。

人波に吸い込まれて消えて行こうとする後ろ姿を必死に追った。


どのくらい時が経ったのか。

三成の姿を求めて追って。
家康は頭を冷やす為に、井戸へ向かった。 ]]>
		</content:encoded>
		<dc:subject>-</dc:subject>
		
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		<title>八</title>

		<description>懐かしい城。今は主を失った城。佐和山。…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 懐かしい城。今は主を失った城。佐和山。三成の城。大坂の三成の屋敷と同様質素であるが此処が本来の三成の場所。此処に訪れる事は数度ではあったが此処で過ごす三成は穏やかだった。

馬を適当に繋ぎ止めて中に入る。

三成が好んだ花木が家康の目に沁みる。

美しい白砂を踏みしめて上がる。

透き通った手漉きの和紙の襖に手をかける。音も無く開けると記憶の中のまま家康を出迎えた。

「・・・っ」

薄くなった香の香りが家康の鼻を掠める。

胸の痛みが増したが意を決して一歩二歩畳を踏む。

少ない調度品が飾られた棚に軽く笑う。

「本当に、三成らしい」

棚に手を添える。懐かしさに喪失感が助長する。額をコツンと当てても耐えられず、ズルズルと膝から崩れ落ちた。

畳にすっかり身体を預けて伏せった。己の鼓動が煩い程耳に響いてくる。

伏せたまま落ち着かない呼吸を上げて視線を彷徨わせると、奥の板間に何か違和感を感じた家康は震える身体を叱咤しつつ立ち上がる。傍に寄ってみると微かな隙間があった。何気なく触れると板が跳ね上がった。

「あ・・・」

板の下に、藤色の敷物が現れた。引き上げてみると、漆器の中に本と書が置かれていた。

手にとってみる。紛うこと無き三成の書体。開くか開くまいか。三成が何を思って綴ってあるのか知りたいのに怖い。今でも家康の脳裏には三成の姿が焼き付いている。三成の許し無く開封しても良いものだろうか。持ったまま葛藤する。だが焦れて苛立つ。書が手から滑って落ちる。

「しまっ・・・」

大切な三成の書を拾おうとした家康だったが、裏返った書を見て息が詰まる。

家康の視線の先には、家康の名が記されていたからだ。その意味を知って、改めて恐る恐る手に取る。

三成が、家康へ宛てた手紙。緊張で手が震える。破ってしまわない様にそっと開封する。

バラっと横に流す。質の良い紙に乗った墨が踊っている。

『こうして筆を取ってみたが、果たして何から書くべきか。貴様には言いたい事が山程ある。だのに、今もこうして迷っている。これを貴様が手に取っているという事は私はもう生きていまい。遺言など貴様にくれてやるのは悔しいのだが、それでも最後に貴様に思い知って貰う事にする。この書と共にあったものは私が綴ったものだ。生きて戻れるかどうかも分からぬから焼き捨ててしまおうとも思ったが、貴様にくれてやる。あまりにも貴様に言いたい事が有り過ぎて書では間に合わん。』

そこ迄読んで家康は三成が綴ったという本に目を落とす。

『この手記は、個人的な感情を綴るだけの物だ。半兵衛様にもあまつさえ秀吉様へも報告すべき事柄ではない。いや、本来であれば、仔細は包み隠さず報告すべきと分かってはいるが、私の私情に塗れたこれはあの御二方の手を煩わせるばかり。ならばこれは私の胸の内にのみ秘めておく物とする。』

こんな書き出しに家康は多少なりとも驚いた。あの三成が私情で手記を付けていた。

手記というならば、日常の事が書かれているのだろう。残してくれた三成に感謝しつつ恐ろしくもある手記の続きを繰る。

『初めに断っておくが、こんな物を付けるのは初めてだ。それも、あの男の所為だ。秀吉様に弓引いた不届きな輩。半兵衛様が手放しで褒め称えるあの男。名を徳川家康と言ったか。忌ま忌ましい。御二方のお声掛けが無ければ今頃は斬滅してやったものを。』

家康は苦笑いをする。あの時の三成の顔は忘れない。

『何故だ。何故家康は私に色々突っかかって来る。いやそんな輩は今迄ごまんと居たがあれは類を見ないしつこさだ。私の何が気に喰わないのか知った事では無い。』

『今日も家康がしつこい。何故か私の寝食の事に迄口を出して来た。私に構うな。』

『成程。半兵衛様が言うだけの事はある。家康も使えるのだな。だが、相変わらず私に付き纏ってくるのが難点だ。』

『家康は不思議な男だな。あれの力量と采配があれば今更ながら豊臣に下った理由が分からない。私ならばあのまま全力でぶつかって果てたものを。益々奴の事が分からない。』

『家康の考えが分からない。何を考えている。』

『家康は私と同じ気持ちで居てくれていると信じて良いのだろうか。』

『近頃家康の視線ばかり感じる。それなのに用向きを問うと何でも無いと言う。一体何だ。』

『私にさしたる用事も無かったから家康の誘いに乗ってやった迄。家康が子供のようにはしゃいでいた。そんなに嬉しいものだったか？よく分からない。』

『家康が怪我をしてきた。私は掠り傷すらも追って居ない。だから私は関係ない筈なのに、何故だか胸が酷く痛い。落ち着かない。むしろ怪我人など足手まといな筈で、だから、家康に無能だと罵る言葉が出る筈なのだが、それが出来無かった。何故怪我した家康を見て心が痛むのだろう。』

『私はどうにかなってしまったんだろうか。家康の顔が見れないと苛々する。見れたら見れたで苛々する。この気持ちはなんだ？』

『訳の分からない感情が恐ろしい。本当は言う筈では無かったのに何故あんな言葉を吐いたのか自分でも分からない。私は私を嫌悪する。』

『私は家康を好きになったのだな。』

『家康の声が心地良い。家康の視線に安堵する。』

『問われたから答えた。それだけだ。』

『私は今、満たされている。』

『家康は何故また同じ事を問う？私の意思は変わらない。私は、豊臣なのだ。』

『家康は何処か体調でも良くないのか時折暗い顔をしている。下らん事で嘘を付くな。具合が悪いなら無理するな。目障りだ。』

『最近家康の様子がおかしい。私に隠し事でもしているのか。そんなに頼りないのか私は』

手記はここで途切れていた。

恐らく己が秀吉を討ったから、それ以降書く事が出来無かったんだろう。

真白な頁が続く。

もう、褪せたと思っていたあの時の慟哭が鮮明に蘇って来た。

苦痛で顔が歪む。装束を固く皺が出来る程に握り潰した。

はらりと涙が零れて書に落ちた。波打ってしまった紙の下が黒い。止まっていた手を動かす。まだ何か書かれていたのだ。

『もう書く事は無い、と思っていたが。やはりそうもいかないらしい。何かをしていないと狂ってしまいそうになる』

『私は家康を許せない。許してなるものか！！！』

『私は、永遠に続く物だと信じていた。家康を信じていた。なのに何故だ？！！家康も私を見てくれていたのでは無かったのか？もう分からない。何も分からない！！！信じられるものか！！！』

『家康！私を見ろ！！！何故何も言わない！！！答えろ家康！！！！！』

『家康。貴様が憎い。憎くて仕方無い。それなのに、私は・・・貴様を、欲している。』
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		<title>七</title>

		<description>苛立った家康は、無言のまま大股で廊下を…</description>
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			<![CDATA[ 苛立った家康は、無言のまま大股で廊下を踏み鳴らして行く。

乱暴な手付きで襖を開く。
室一杯に散乱した書物を冷ややかに見る。
腰を降ろして一つ手に取る。頭の中には入って来ない。ただ言葉の羅列が目に浮かぶだけだ。

時を置かず、室から去る。


射場に着くと小姓も呼ばず、定位置に立掛けてある弓を掴む。

矢筒から矢を一掴みする。組み木の台に転がして、一本だけ引き絞る。
放った矢は、的の端を深く抉った。
一呼吸置いて、放つ。
また中心から外れて刺さる。
溜息を吐いて。目を閉じた。
視界を遮断する。
木々が揺れる音と鳥のさえずり。
雑音を排除する。
空気を割く音がして矢が放たれた。
破裂音。
数瞬後に更に大きな破裂音。
中央に鋭く刺さった矢が寸分違わず矢尻迄到達、痕跡を残し的の下に砕け散っていた。
弦が切れた弓を台に放るように置いて家康は立ちすくむ。


（三成っ、三成っ・・・三成っ！！！）

三成の幻想が胸を支配して堪らなくなって城を飛び出す。

政務もそこそこに、家臣の問いにも答えずに繋ぎ止めてあった馬に飛び乗って走らせた。

己の居城には数多の家臣が居ても、三成は居ない。

馬を潰す勢いでひたすら走らせる。家康が乗った馬がとうとう根を上げて口を割った頃には城下が遙か彼方に小さく見える程だ。

その様を見て家康はようやく幾許か心を取り戻した。

「ああ、すまんな」

荒く息づく愛馬を数歩歩かせ、静かに降りる。馬の首筋を撫でて手綱を引く。

勢いで出てきてしまったが、常日頃から行きたかった場所がある。そこ迄は随分とある。家康はゆっくり歩きながら見知った街道に沿っていく。水場で馬に水を飲ませ、己も気付けに顔を洗った。
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		<title>六</title>

		<description>「それにしても・・・石田殿にはいささか…</description>
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			<![CDATA[ 「それにしても・・・石田殿にはいささか参りましたなあ」

「いやはや。拙者も同感でござる」

「あの妄言にはついていけぬわ」

「お主達」

硬質な声が響く。

「その名は、口にするな、と申したであろう？」

膳を囲んだ席でうっかり口を滑らした輩を家康は見逃さなかった。

柔和な物言いではある。だが、目元は全く笑っていない。

「何か、ワシに言いたい事がおありか？」

「滅相もございませぬ」

そう言った者は蒼褪め、うつむいて震えている。

「そうか？」

小首を傾げる家康。家康から背筋が凍る程の怒気が放たれる。

「ワシの思い違いだったか？すまんな」

にこりと笑って恐ろしい程の光を宿したまま、失言した大名を射貫く。

「嗚呼、そういえば」

退散しようとした大名がびくりと足を止める。

「そちの身辺で妙な話を聞いたのだが。気になってな。後でゆるりと聞かせてはくれまいか？」

いつの時代も、当世の治世に不満がある時、人は謀反人の名を出す。世間に広く三成が天下人への謀反人という形で伝えられてる今、三成の名を出すという事は、処罰の大義名分が確定してしまった瞬間である。将軍となった家康への謀反ありという名分では如何なる大名とて裁きは逃れられない。家康の勘気に触れた事は明白。怒りを出す事は少ないが、一度出したら納まる事は無い。

三成が絡むとなると思わず語気を荒げそうになる家康だが、なんとか踏み止まる。まさか家康が三成に懸想しているとは知られる訳にはいかない。三成を良く思っていない者が多い中、ようやく築き始めた世を自らの手で崩す事になりかねない。それでは、三成が死んだ事が無駄になってしまう。三成を死なせてしまった家康には己の描いた泰平の世だけはなんとしてでも作り守らねばならない。

もう話す事は無くなったと言わんばかりの家康はそのまま広間を後にする。
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		<title>五</title>

		<description>家康は日々を多忙で極めていた。戦後処理…</description>
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			<![CDATA[ 家康は日々を多忙で極めていた。戦後処理が終わっても新たな仕組みを一から定める必要があるからだ。細やかな制度を綿密に組み上げ、それを仕切る役人と権限、掟を編んだ。

脳内を巡るのは三成の事。このような政は三成であればいとも簡単に成していただろうに。

いかん、と軽く頭を振って、眼前の山河となった書を見やる。気を抜くと直ぐに三成の事で頭が一杯になって、挙句呼吸もままならなくなる。何度苦しい思いをした事か。

周囲が驚く程、家康は精力的に政を行ったが、それは単に家康の目指す泰平の世を作る為だけでは無く、何かをしていなければ気が狂いそうだったからだ。

秀吉を討った後も幾度も自分に言い聞かせ、自分を騙せるようになってきたと思っていたが、ちっともそうでは無かったらしい。むしろ、日に日に三成への思いが募るばかりだった。

睡眠も食事もそこそこに毎日を忙しなく過ごしたお陰か粗方の枠組みは出来てきた。
後は、その都度細かい修正を加えていけばいい。

国の基礎作りへの焦りと三成への想いが混ぜ込ぜになり、心身が悲鳴を上げている。
晴らす事の出来ない鬱憤は劣情となりまた熱を吐き出すしか己を保つ事が出来ないでいた家康は跡取り相続の名目で適当に女を抱いてみるのだが特にこれと言った感情は湧いて来なかった。女を抱けば抱くほど己に失望するのである。

（ああ・・・やはり駄目だなあ）

誰に呟くでも無く、人気の無い執務室で大きな溜息を付いた。

部屋の隅に目が行く。

そういえば、気晴らしによく鷹狩りをしていた。道具を見てようやく思い出した。

「近頃は、鷹狩りもしていなかったか」

勿論優秀な鷹匠も未だ雇ったままであり、何羽も優れた鷹も有していた。だがそれらは、鷹狩を好みとした大名への土産として与えるばかりで家康自身は鷹狩への関心が回っていなかった。

立ち上がって、肩を解す。戦が終わって久しく、健康の為の早朝の運動以外は部屋に篭もりきりで身体の節々が痛い。

「政も一段落した事だし、外に出ても良いだろう」

換気は良くされてはいるが、それでも篭もりきりは良くない。

「鷹狩に出掛けて来る」

家康がそう告げれば、直ぐ様鷹の準備がなされた。

着飾った馬を前にして、一瞬考えこんだ家康だったが、一つ頷いて馬に跨る。

馬の背に揺られても鷹は微動だにせず家康の左手に止まっていた。






共を連れる事なく一人で狩場へとやって来た家康は鷹を放して、ぼんやりと空を眺める。

今跨っている愛馬は透き通るような白い毛を持つ騎馬。戦をする事もなくなり、戦で目立つ毛色の馬を多用するのも差し支えない今は敢えて目立つ毛色の馬を用意させた。




ピォ―――――――――――――と甲高い鳴き声が上がる。

家康の思考が戻る。

鷹が家康の方へ向かって来た。
中空で旋回して、大きく左へ楕円を描いてゆっくりと奥へ羽ばたいて行く。獲物を見付けたようだ。
家康は一本の白羽の付いた矢を番えて放つ。
ひゅん、と小気味良く風を切って飛んだ。
鷹が急上昇した真下に矢が到達して獲物が落下する前に鷹が拾い上げる。そのまま家康の元へ鷹が舞い降りて来る。
見事に首を握力で握り潰して来ていたのを目にして顔が歪む。なるべく見ない様にして、鷹の足から獲物を外す。家康の目に銀の環が写る。そこに刻まれているのは『三刃（みつば）』。鷹にしては珍しく白い羽根が多い。その上に瞳は暗緑色。鋭い様でいて澄んだ姿にいてもたってもいられず、出会った瞬間にその場で名付けたものだ。






こうして繰り返し白い馬と白い鷹を連れて鷹狩に足を運んだ。


家康はふと周りの景色を改めて見た。

「あれ・・・？なぁんだ・・・そっかあ・・・」

意図せず調度良いところで狩りに勤しんでいたと思っていた。だけれども。良く良く見れば、どこも見た事がある景色ばかり。

「ここも・・・あそこも・・・良く、三成と遠乗りに来ていたっけな・・・ぁ？」

風に乗って心地の良い玲瓏と響く低音で己の名を呼ばれた気がした。

事実を自覚した家康は、昼間は尚の事時間の許す限り鷹狩を続けたのだった。
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		<title>四</title>

		<description>戦後処理をあらかた済ませたところで、家…</description>
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			<![CDATA[ 戦後処理をあらかた済ませたところで、家康へ跡取りの為の縁談が持ち上がる。

家臣に三成の事は明かす事などしない家康だったが家康にとって三成の存在は大きく、時折ぼんやりと空を眺める家康の姿を見かねた家臣たちが心配をしだしたのだ。

「家康様。ここのところお疲れでございましょう。政務も落ち着いて参りましたし、そろそろ、奥方を娶っては如何でございましょうか」

生憎、家康には元々女を囲う趣味はない。女を抱いた事も多かったが、織田傘下や豊臣傘下の時代、また三成と対立するようになって兵を集める際の人付き合いとして人から勧められた女だけ気乗りしないが抱いただけだ。
気立てが良いだとか、美女だとか、風評立つ女も家康にはどうでも良かった。女に興味を持てないからと男色に手を出した事も無い。

（三成だけ）

家康は角が立たないようにやんわりと断って来たが、家康の心が晴れないのも事実。家臣に要らぬ心配をさせるのも、断り続けては家臣との意思の疎通を欠く事になる為避けたい。
家臣から輿入れに来る女人の家柄を聞かされる。頭の隅に朧気にある家系図を展開させて、適当に返事をする。
とんとんと縁談が決まった。婚儀の最中に自分が何を口にしているのか良く分からない。
長い人質生活から自然と処世術が身体に叩き込まれたお陰で無意識に言葉が出ている。

特定の正室は持つ気になれなかった。どうせ、どの女も三成の代わりにすらならない。だから家康は側室だけ承知した。

「家康様。此度の奥方様のご懐妊、真にお目出度う御座ります」

「ん？ああ・・・」

日課の薬草の仕分けに没頭していた家康はそう家臣に言われる迄気に留めていなかった。

だが、外面の作り方なら心得ている。脳内で暗い思考を潰す。足元の池の中の己の顔は少なくとも嬉々とした造形をしている。鏡代わりに庭園に造らせたとこの大きな池の意図を知ったらどうなるやら。とにかく、家臣にはにかんでおく。家臣たちは全く気付く様子も無い。知らせるつもりもないが。

生まれたのは男子だった。普通の感覚であれば喜ぶべき事。生まれて間もない我が子を見てみるがとても自分の子だと思えない。恐ろしく他人事にしか感じ無い。

「男子を産んでくれて感謝する。しばらくゆるりと休んでくれ」

笑顔を見せて助産婦たちに会釈する。表向きは出産を終えたばかりの側室への配慮。その裏は、単にその場に長居したくないだけ。最低限の言葉を交わしたら自室に篭もりたい。

廊下を曲がって誰も視界に入る事が無くなった途端に表情が消える。疲れた。休みたい。

自室に戻ってきて、後ろでに襖を閉める。

先程握りしめた女人の手。あれよりはしっかりとしてはいるが美しい手だったな。

（三成・・・。死なせる事さえ無ければ今頃は・・・）

家康は力無く座り込む。脇息に凭れる。懐に手を置いた。袷の下に三成の銀糸の髪を一房忍ばせてあった。
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		<title>三</title>

		<description>政務をこなした後どうやって寝所に来たの…</description>
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			<![CDATA[ 政務をこなした後どうやって寝所に来たのか覚えていない。

気付いたら、寝所にいた。

夜がとっぷりと暮れていた。

だだっ広い家康の寝所の一角に数本の蝋燭が点っているだけだ。

疲れた。ようやく一日が終わろうとしているのに、こんなに刻の流れを遅く感じた事は無い。

頭痛がする。目眩がする。怠い。目を閉じて軽く頭を振るが気休めにもならない。目頭を摘んで肩を回した。目を覚まさせる為に左の首を左の平で強く圧迫する。

視界に葛籠が写る。一歩二歩歩んで腰を下ろした。

10日程して見事な漆器が家康の元に届けられた。

半畳の畳に緋色の座布団を敷いてその上に漆器を乗せる。
作業を終えた家康は漆器を眺めて陶酔した。

密かに命じた墓石が到着する迄は一緒に居られる。いや、墓石が到着したら、裏庭に設置する。

他国から黒い石を取り寄せる事にした。

（流石に、三成の名は刻めないか・・・）

家康は自分の名を彫るように告げた。

「今日を忘れない為の記念碑として建てる。だからここにはワシの遺骨を分骨で埋めて欲しい。仔細は書に綴ってあるからワシの死後、次期将軍から申し伝えさせる」

早々に家康がそんな事を口にするものだから側近や重臣は酷く動揺していたが家康は決意を押し通した。

夜半に寝所から抜け出し三成を抱えて裏庭に運ぶ。

「もう、今日で最期なのか。三成の顔、もっと見ていたいのに」

美しい満月を背に家康は悲しげな笑みを浮かべる。

葛籠ごと三成を深い穴に下ろすが、なかなか土を被せられない。

「三成っ・・・」

だが無情にも刻は過ぎて行く。墓石も整ったのだ。三成を安らかに眠らせてやろうという思いと自らの哀惜とがない交ぜになって家康を苛んだ。
それでも、空が白んで来る前に済ませなければならない。
そろりと緩慢な動作で土を盛る。少しずつ足元に近付いてくる地面を他人事のように見詰める。

そうして完全に土が家康の足元と同じ高さになっても家康は動く事が出来無かった。

身を切る以上の痛みが胸を締め付ける。
それでも逃げる事は出来ない。

何度も何度も振り返りながらも家康は室へ辿り着いた。





葛籠を取り出した漆器も打ち掛けもそのまま変わらずに留め置く事にした。 ]]>
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		<dc:date>2012-03-23T22:47:47+09:00</dc:date>
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		<title>二</title>

		<description>自分の居城に戻った家康は、己の寝所の更…</description>
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			<![CDATA[ 自分の居城に戻った家康は、己の寝所の更に奥に葛籠を据えた。
お気に入りの屏の脇に置く。

下女を呼びつけて、上等な絹の打ち掛けを用意させた。

三成に似合っていた香を焚き染めて衣桁にかける。

ふと、葛籠を見る。

「誰か居るか」

「こちらに」

控えの間から専属の小姓が襖の合間から顔を覗かせる。

「済まないが、この葛籠を入れられる器を設えるように手配してくれるか。黒漆の錦絵を描いて貰いたい。評判の絵師が居たろう？そうだな・・・月と雲母と、鷹がいい。なるべくはやく用意するように伝えておいてくれ」

「は」

小姓は短く返事をすると、袖から尺を取り出し、葛籠の寸法を手際よく測って直ぐ様下がった。

「そうだ。あれも出さないとな」

愛用の薬棚から密閉した透明の硝子瓶を手に取る。品種改良を加えられて匂いが抑えられた高価で貴重な薬だが惜しみも無く開封する。三成の交差された腕と腹の間に薬を置く。

替えに用意されていた家康の小袖に匂い袋を挟んで三成にかける。

「うん。これでいい」


家康は、そうしてようやく戦の事後処理に取り掛かった。

西軍諸大名への罰則として領地の召し上げ。東軍諸将への配分。
最も心を配ったのは、三成の事だ。

三成は気性が激しかった為三成の事を快く思わない輩も少なくない。
三成へ憎悪を向ける輩に黒い感情を覚えたが強く腹の底に沈めた。

三成の骸は家康が既に葬ったと言い包めた。適当な屍を見繕って葬っておいたから大丈夫だろう。

領地を与える際に、全大名を広間に集めて、三成の名を出したり批判した者は厳罰に処すると厳しく言い伝えた。表向きは将軍への謀反、天下の大罪人としての処置だ。

「西軍から合戦の終盤になり東軍に寝返った将の領地は召し上げ、取り潰しとする。途中で裏切る者など、ワシは信用出来ん。また、三成の名を出すようであれば、ワシに弓引く者として、相応の処罰を下すつもりだから肝に命じておけ」

合戦に際して三成を裏切った将へは厳しい処置を施した。 ]]>
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	<item rdf:about="https://tenyounotuki.web.wox.cc/novel/entry57.html">
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		<title>五</title>

		<description>「戦国、だよな」

「忠勝だ。忠勝、裏…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 「戦国、だよな」

「忠勝だ。忠勝、裏の屋敷に頼む」

家康は佐吉の手を引いて忠勝の背に上がらせる。

家康は落ちないように佐吉を脇から抱え込む。

佐吉の思考を遥かに上回って忠勝は家康と佐吉を乗せたまま屋敷へと飛んで行く。

屋敷に着いた家康は佐吉に部屋を宛がう。

「儂が居ない間は隣の部屋に小姓が控えているから好きに使っていいぞ。屋敷の外に出る事以外は自由にしててくれて構わない」

「佐吉は食の方はどうなのだ？何か食べたいものはあるか？」

「特に腹は空いていない」

「そうは言ってもなあ。あれから大分時間が経っているぞ。何か食べないと佐吉が倒れてしまう。甘味はいるか？それとも果実がいいか？」

「ならば飲み物と、何か適当な物で構わない」

「茶がいいか？酒がいいか？じゃあ茶と菓子を持ってこよう。先日京から良い菓子を手に入れたばかりだ」

「将軍への献上品を口にする訳には・・・」

「儂独りだと寂しい」

家康は佐吉を置いて茶を取りに行く。

とてつもなく広い部屋に置かれた佐吉は急に不安になった。

（確かにこんな広い部屋に独りは落ち着かないな）

家康の後に着いて行こうかと思ったが逡巡している間に家康の姿は見えなくなってしまった。複雑に曲がりくねった廊下を渡り探し当てるのは困難だと理解した。腹心すらもあまり近付かない私生活の為の屋敷だと言っていたから安全かも知れないが勝手に出歩いて万一知らぬ男にまた斬り掛かられたら防ぎようもない。

急に家康と離れて焦燥感が沸いた。

（焦燥？何故だ？）独りが慣れていると思っていた佐吉は自分の心に狼狽した。
（家康と離れた事が・・・寂しいとでもいうのか？！）自分の気持ちに驚いた。

手持ち無沙汰の為に佐吉は落ち着かない。

（早く帰って来い家康）思った瞬間、慌てて首を振る。（子供でもあるまいし何を考えて）

居ても立っても居られず佐吉は襖の外へと首を伸ばす。

「佐吉ー」

「？！」

また後ろから声がした。勢い良く振り返る。

「口に合うかな」

急須と菓子折りを携えて家康が戻ってきた。

こほん、と軽い咳払いをする佐吉。

「風邪か？」

「い、いや、何でもない」

盆ごと受け取り急須に手を添える佐吉。

家康がじっと見てきた。

「佐吉は茶の知識があるのか？」

「いや？さほど無い。見よう見真似だが何かおかしかったか」

「佐吉は、剣術とか出来たりはするのか？」

「剣術って程ではないが、部活動で剣道は少々」

「成る程。未来でも三成なんだ」

家康は満足そうに頷いた。 ]]>
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