家康視点多し。
特に記述が無ければ、関ヶ原になります。他武将も登場する場合には割合が多ければ記述。
関ヶ原、主に家三で小説、たまに絵。史実ネタとその逸話からの独自解釈、捏造改変など混ぜてたり。
基本はゲーム設定に色付け。男前が目標。シリアスで戦国設定濃い目。転生、現代あり。
合戦描写が好きな管理人です。



   水銀の盃●草創
その日は暑かった。
茹だる様な、夏の日。
肌を刺す強い日差し。
緑の葉をたわわに実らせた大樹が、そこかしこから熱が上がる瓦を覆い尽くすように枝を伸ばしていた。
まるで子を守る母のように。
木々の下に建てられたその寺は、小ぶりで、あまり人手の多くない立地に在った。
時折、青い上空から、猛禽の声が鋭く聞こえる。
蝉の忙しない鳴き声。
申し訳程度に流れる小さな川。しかし、その川はとても澄んでいて、耳に心地よい水音を届けていた。
水底が小さな砂利の色迄を鮮明に映し出し、鮎が泳ぐ姿も観察する事が出来る。
流れる水が小岩に当たり水飛沫を跳ね上げた。
冷たい水が岩を絶え間無く濡らす。
盆地に在って、しかしその中でも周囲に恵まれたその場所は、幾分か暑さを凌ぐのに恰好の良い場所だった。
川から引かれた質素な井戸が、寺の裏手に見えた。
そこで水が跳ねる音が聞こえた。
童。
背丈からして、十前後であるか。
屈み井戸から水を汲み上げ終えた童が、腰を上げた。
水の入った桶を危なかしい手付きも無く、抱え込んでいた。
そうして、寺の中へと入って行った。










黒い馬が砂利を踏みしめて歩く。
共も連れずに、唯一人、静かな山沿いの道を遊山していた。
長らくの旅。遠征に次ぐ遠征。
馬上の男。
この時代には珍しく大きな男だった。
赤と黒の甲冑を身に纏った男は、ふと、馬の歩を止めた。
視力の良いその目に、一つの小寺を見止めた。
馬を水溜りのある地に生えた木に繋ぎ止める。
男は馬を撫でてから寺に向かって歩いた。

「誰ぞ、おるか」
男が声を掛けた。
返事はない。
あまり人気があるとは思えぬ寺。
留守なのだろうか。
しかし、手入れは行き届いており、小奇麗である。

男は待った。
縁側に腰をかける。
すると後ろから小さな音がした。
「お武家様、何用でおいでになりましたでしょうか」
声に振り返る。
白い童。
髪も肌も透き通り澄んでいた。
垂れていた項を上げた童は真っ直ぐに大男を見た。
この土地の琵琶湖を思わせる美しい色の瞳で。
所作は精錬された水の如く淀み無い。
「お前は、この寺の者か」
男は気に留めるには珍しく、この童に何気無く声を掛けた。
「はい。こちらで世話になっております」
威圧的に映りがちな大男へ視線を逸らす事も無く、落ち着いた童。
見所はありそうだ。そう思った。
「一汗引く迄馬を休ませても良いか?」
「はい。では、先程、井戸水を汲んで参りましたので、私が茶をお出しします。お待ち下さい」
そうして、音も立てずに立った童は、奥へ消えた。
男が後ろ姿を見送り、それからさほど時間が経たずうちにその童は戻ってきた。
「お茶をお持ちしました。どうぞ」
ことり、と盆から床板に丼を置いた。
大きな丼。なみなみと注がれている。
しかし、殆ど湯気の気配は無い。
不思議に思い、手に取る。
温い。その侭、一息に飲み干した。
暑い日に乾いた喉に心地良い。
碗の茶ですっかり喉が潤っていた。
添えられた菓子を一口。
茶の後味を引き立てるような、程良い甘さ。

また茶が欲しくなった。
「もう1杯くれぬか」
「かしこまりました」
丼を受け取り、童が下がる。
そして、少ししてまた戻ってきた童が差し出したのは先程とは異なる器。
今後は碗であった。
碗を手に取ると人肌程のちょうど良い熱さだった。
飲む。
茶の香りが立って、感心した。
「これは、先程と同じ茶の葉を使ったものか?」
「はい。とは言っても、粗茶でございますが。此処一帯で良く飲まれている、親しみのある茶の葉でございます。お武家様のお口には合いませんでしょうか」
「否。我が口にした、どの茶よりも、心が篭っている。都で飲む茶は確かに由々しき地の茶なれど、茶人が点てた茶に匹敵する物ぞ」
味も香りも、存分に引き出された茶。率直に述べた。
確かに、過去口にした茶よりは劣る。

しかしそれは、相当値の張る茶の葉や、茶人を招いての上の物である。
それらに比べたら、これこそが茶の本来であるのではなかろうか。
城に招いている利休に弟子入りをさせたら、はたしてどんな茶になるのか。
そして、ふと、男は、試したくなった。
「もう1杯、貰えぬか?」
頷いて、三度、奥へ戻る。
最後に出されたのは、茶碗に少し。
熱々とした湯気が立ち上っていた。

男は迷わず茶碗の上の方を掴み、一気に飲み干した。
濃い茶の味がした。
そして、満足する。
「小僧。お前は、外の世界に興味はあるか?」
「・・・外、でございますか?」
童が目を丸くした。
「そうだ。外だ。我は、天下を目指している。お前も共に来ぬか?」
男は童を見た。
童も男を見返した。
「私は・・・行っても良いのでしょうか?」
それ程身分の高い者ではないと、童は言った。
男は笑った。
「そのようなものなど、この世では、役に立たぬ。この世で必要なのは、志と、力ぞ」
「力・・・」
琵琶湖の瞳が瞬いた。
「行きます。ついて行きます、お武家様」
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