家康視点多し。
特に記述が無ければ、関ヶ原になります。他武将も登場する場合には割合が多ければ記述。
関ヶ原、主に家三で小説、たまに絵。史実ネタとその逸話からの独自解釈、捏造改変など混ぜてたり。
基本はゲーム設定に色付け。男前が目標。シリアスで戦国設定濃い目。転生、現代あり。
合戦描写が好きな管理人です。



   水銀の盃●草創
「それでは、三成。また、後でな」
家康が三成に手を振る。
家康は己の部屋に歩いて行った。
(さて)
三成は茶室で待っていた。
程無く、その人はやって来た。
緩やかな巻き髪の男性。
三成よりも小柄で痩身で、かつ柔らかな雰囲気のその人。
淡い萌黄の衣が良く似合っていた。
三成とその男性が並ぶと、神聖さが増した。
「お待たせしたね、三成くん」
「いえ。ちょうど良い時間です。半兵衛様」
半兵衛は三成の真正面に座った。
「すまないね、三成くんに茶を頼んでしまって」
「いえ。半兵衛様に望まれるなど、光栄です」
「三成くんのね、お茶を飲むと、心が安らぐんだ」
半兵衛は手元の茶碗をくゆらせた。
三成は不思議そうな顔をする。
何故なら、自分には分からないからだ。どうして、そのように言われるのかだなんて。
検討が付かない。
ただ、茶を淹れているだけなのだ。
それでも、三成にとって、半兵衛が、そのような感想を告げるという事は三成の至福とする所だ。
褒められて、素直に嬉しいと思う。
「このような茶で良ろしければ、私は、幾らでも」
半兵衛に喜んで貰いたい。心からそう思った。
そんな三成を半兵衛は、また、嬉しそうに笑った。
茶を口にしてから、半兵衛は思い出した事を三成に言う。
「そうそう。あれから、家康くんと、随分と打ち解けたみたいだね?」
三成は咄嗟には返事が出来なかった。
が、そんな三成を見ても、半兵衛は咎めない。
どう返答したら良いものか考えあぐねている三成など滅多に見る事など出来ない。
だから半兵衛は、おかしくて微笑ましくて、見守っていた。
「そんなに身構えなくても大丈夫だよ。家康くんと仲良くしてる事で叱ったりなんてしないから。僕はね、素直に嬉しいんだ。君が家康くんの気を引いてくれるお陰でとても楽に事が運んでいるのだから。家康くんの働きぶり、君も知っているだろう?」
そうだ。家康は豊臣に下ってからというもの、せっせと他のどの豊臣の臣下よりも率先してどんな小さな仕事でもそれこそ全力で迅速にこなしていた。
初めは余所者だ、と思っていた三成も、この頃は家康の働きぶりには一目を置き、多少の鬱陶しい程の接触にも悪い気はしていなかったのだった。
「私は、何者だろうと、豊臣の、秀吉様の為に働く者であれば、拒みはしません」
「そうだろうね」
真面目な三成。半兵衛はそう評価していた。
「でもね。もう少し君は、遊び心も知った方が良いかな」
もっとゆとりを見せるのも大事だよ、と半兵衛。
「そんなに肩の力を張っていては、皆が怯えてしまうよ?いや、まあ、君の直下の臣下達は、それはもう君を慕っている者ばかりだし、そんな事は無いのだけども。だけど、それ以外の者には君の良さが伝わっていない」
「・・・必要ありません。私には。別に私は、全ての者に好かれたいと、そのような事は思った事は。ただ、豊臣に尽くしてくれさえすれば、私の事など、どうでも構わぬので」
半兵衛は三成を見た。
三成は些かの動揺も無い。
「そうか。まあ、三成くんのその力は僕等にとっては非常に好ましいからね。今迄一度も不利益になった事など無いのだし。ただ・・・」
そこで半兵衛は言葉を切った。
「?半兵衛様?ただ、何でしょうか」
「いや。君にはそれは不得手だったね。それに、そうだとしても、君には問題の無い事だよ。それを、家康くんが補ってくれるのだから。三成くんは、そうだね、今後も、家康くんと共に豊臣を支えてくれれば僕は満足だよ」
「・・・はい」
少し気になったが、三成はそれ以上の詮索はおろか、半兵衛に言い詰める事もしない。
三成とはそういう男だった。
茶を飲み終えて、すっかり日が暮れた。
半兵衛は明日に備えて軍義の後、休むと言い、茶室から去って行った。


渡り廊下を過ぎて、広大な城の中を半兵衛は歩いて行く。
途中で数人とすれ違う。
大所帯になったものだ。
それもこれも秀吉が領地を拡大していった証でもある。
あちらこちらの大名を吸収して、いまやこれといって敵対する勢力も残す所あと僅かとなっていた。
これから天下を平らげる為の総仕上げをしなければならない。
半兵衛は、脳裏に秀吉の姿と、その秀吉が統べる世界を思い描いていた。
どのように攻略して、世界を作ろうか。
楽しみで仕方が無い。
半兵衛の顔が綻ぶ。
曲がり角から、黄色の衣に髪を上に撫で付けた男がやってきた。
家康だ。
家康はこちらに気付くと、笑顔を向けてきた。
「これは半兵衛殿。 今お帰りでしたか」
「うん。三成くんと会って来たよ。彼の茶はとても良いからね」
「ああ。三成の茶は本当に、美味しい。あんなに美味しい物だったのかと、改めて茶が楽しくなって。それで先日、ワシの実家と付き合いのある茶屋に、早速茶の葉を頼んでいた所だ。今度はその茶でも三成に煎じて貰おうかと思っているのです」
「それは良いね」
半兵衛にとって三成は大事な豊臣の臣下というだけでなく、半兵衛の後継者として期待をしている。半兵衛は三成が幼かった時から指導をしてきた。その三成を、手放しで評価されているとなれば、半兵衛にとっては親心として喜ばしいものだった。
己の成果の一つがまた、実っている事を肌で感じるこの瞬間。
確実な手応えに半兵衛は気を良くした。
「今度、その茶に合う菓子を僕から贈ろう」
「本当ですか!それは有難い。こちらで出される菓子はとても美味しい。ワシは実はそれがいつも楽しみで」
家康の満面の笑み。
「あはは。家康くんは沢山食べるものね。八つ時迄も持たないかな?もっとも、君は働き者だから、お腹が空くのは当然だよね。君への報酬としてはいささか少ないけれど、ひとときの息抜きとして楽しんで貰えるなら喜んで提供させて貰うよ」
今度は何が良いかな、と半兵衛が笑う。
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